入れ歯とインプラントの現状
入れ歯とインプラントの現状について、詳しく解説致します。
インプラント治療が流行っている理由
近年、なくなった歯を補う方法として、インプラント治療が様々な歯科医院で取り入れられています。インプラント治療とは、骨に金属製のネジを入れ込んで、その上に人工の歯を固定する治療法です。
なぜ、歯科医院では、インプラントがこれほどまでに勧められるようになってきているのでしょうか。このページでは、入れ歯治療とインプラント治療の選択の参考になるために、歯科業界の現状を説明しようと思います。
成功すれば、インプラント治療はとても良い治療法
インプラント治療は、成功して問題なく長持ちしている場合は、とても良い治療法です。まさに、人工的に歯を生やすのとさほど違わないかもしれません。患者さんにとっても、大きなメリットがあります。但し、成功した場合というとても厳しい条件付きですが。
歯科医師は、難しい入れ歯治療をしなくて済む
入れ歯治療は旧来からある治療法ですが、非常に難易度が高い治療法です。入れ歯治療はシステム化しづらい治療法で、患者さんごとの個人差が出やすく、職人的な技術や経験が必要になってきます。熟練するためには相当の努力が必要です。インプラント治療があれば、難しい入れ歯治療から歯科医師は解放されます。
歯科医師は、歯を残すための努力をしなくて済む
歯を残す治療は、非常に難易度が高いです。マイクロスコープを使っての細かい作業が必要な根管治療や、患者さんと協力してお口の中をきれいにしていく歯周病治療など難しい治療から解放されます。何しろ、歯が悪くなって抜くことになっても、インプラントがあれば歯を補うことが出来るわけですから、歯を残す努力をする必要がありません。
インプラント治療は自由診療のため、保険診療と違ってちゃんと儲かる
インプラント治療は、治療法自体に健康保険が使えません。ということは、未熟な歯科医師が行っても、ベテランの歯科医師が行っても、歯科医師が行えば誰が治療しても自由診療です。保険診療と違い、価格を自由に決められますので、ちゃんと利益が出るように価格設定できます。歯科医院が儲かることは良いことなので、これはとてもいいことです。(歯科医院が儲かる→患者さんに還元するための投資が出来るようになる)
逆に、保険適用になっている入れ歯治療や根管治療、歯周病治療を自由診療で行うためには、保険診療での治療内容と差をつける必要があります。もちろん、薬剤・材料は自由診療用のものを使いますが、それだけでは治療内容として、患者さんを納得させられるだけの違いは出せません。標準的な保険診療での治療内容と明らかに差がわかるくらい圧倒的な技術力をつけないと、自由診療で行うことが難しいということです。
インプラント治療なら、歯科医師であれば誰でも自由診療で治療できるため、参入の敷居が低い(広まりやすい)と言えるでしょう。
インプラント治療の落とし穴
さて、良いことだらけに思えるインプラント治療ですが、落とし穴が沢山あります。
そもそも、インプラント治療の成功率はそれほど高くない
今までの話は、インプラントが長持ちすることが前提として話が進んでいますが、インプラント治療の成功率は高いとは言いがたい状況です。インプラント治療の生存率(歯ぐきにインプラントが残っている確率)は高くなってきていますが、インプラント治療の成功率(インプラント周囲炎などの病気や問題が起こっていない確率)はそれほど高くありません。日本での研究では、治療の3年後に6割後半程度と言われています。
インプラントの生存率と成功率をきっちり分けて考えなければなりません。
インプラントは天然の歯の代わりにはならない
インプラントと歯はそもそも全く挙動が違います。骨との結合の仕方、硬さ、動きなど、違いを挙げればきりがありません。インプラントは歯ではなく、固定式の入れ歯と認識するべきでしょう。
インプラントも歯周病になる
歯周病の細菌は、歯ぐきや骨を破壊していくため、インプラントの周りの組織や骨を破壊します。歯周病の細菌をお持ちの方は、インプラントも歯周病と同じように、周りで炎症を起こし、骨や歯ぐきが破壊されてしまいます。これをインプラント周囲炎・インプラント周囲組織炎と言います。歯周病をお持ちの方は、インプラント治療の成功率が歯周病をお持ちでない方と比べると、明らかに下がります。しかし、よく知られるように、日本人の多くが歯周病であり、歯周病の細菌に感染している方は非常に多いです。インプラント周囲炎やインプラント周囲組織炎の治療法はまだ確立されていません。治療できるとすれば、高度な歯周病治療の技術によるものでしょう。
そして、残念ながら、歯周病で歯の周りの組織を失うのと同じような速さでインプラントの周りの組織も失われていきます。歯周病治療が出来ない歯科医師によるインプラント治療は、長持ちしない可能性が高いと考えられます。
インプラント治療を受けられない全身状態の人も多い
日本は医療の進歩により長生きされるようになり、超高齢社会になっています。長生きはされますが、やはり高血圧・糖尿病・骨粗しょう症などの基礎疾患を持たれている場合が多々あります。そういった状況で、インプラント治療を含め、外科処置を出来るだけ避けなければならない方も沢山いらっしゃいます。
インプラント治療は、様々な治療法の中で最も高額になりやすい
インプラント治療はしっかり正しく行うとすれば、本当に大変な処置なので、治療費が高額になるのは仕方ないとは思います。しかし、金額は入れ歯治療の数倍になってしまうため、患者さんにとっては大きな負担となってしまいます。インプラント治療で失敗してしまうと、その失敗をフォローするための治療を受ける治療費を工面できないというパターンに陥りがちです。
入れ歯治療をきっちり行える歯科医師が激減している。
デメリットもあるインプラント治療ですが、歯科医師にとってメリットがとても大きいため、非常に流行っています。このため、歯科医療としてもマイナスの影響が起こってしまってきています。
恐らく、一番大きな影響は入れ歯治療を行える歯科医師が本当に少なくなってしまっていることでしょう。当院のように、本当に入れ歯治療を専門的に行っていると言える歯科医師の割合は、恐らく1%を切ってしまっていると思われます。
そもそも、入れ歯治療で結果を出せるようになってしまったら、入れ歯より儲かるインプラント治療を行う必要がないため、入れ歯治療を勉強しようという歯科医師は自然と少なくなってしまいます。
しかし、現実には色々な事情により、インプラント治療を受けられない患者さんは沢山いらっしゃいますので、入れ歯治療がなくなることはないし、入れ歯治療を専門的に行える歯科医師がいなくなってしまえば困ります。