入れ歯とエビデンス
入れ歯治療に関するエビデンスの考え方について、説明いたします。
EBM(Evidence Based Medicine)とは?
近頃、「エビデンス」という言葉が一般化して来ています。エビデンス(evidence)というのは、英語で証拠・根拠という意味です。
医療の世界にも、EBM(Evidence Baced Medicine)という言葉があります。日本語にすると、「根拠に基づいた医療」ということです。ここでいう根拠とは、科学的根拠を指します。具体的には、研究論文などの科学的根拠を示す事実に基づいて治療を行っているかどうかということです。簡単に言えば、世界中で研究したことによってわかったことで、マニュアル(ガイドライン)を作り、それに沿って治療するようなものです。私も、基本的にはこの考え方に基づいて診療しています。
現実には、人体や病気に関しては、わからないことが膨大にあります。
医学も進歩はしてきてはいるのでしょうが、まだまだ人体や病気には解明されていないことが沢山あります。歯科の分野では、未だに、むし歯菌や歯周病菌を撲滅することは出来ないし、歯と同じ硬さの材料は開発されないし、顎の関節とかみ合わせに関しては、ほとんど何もわかっていないというのが現実です。
残念ながら、EBMに基づいて診療を行ったとしても、解明されていないことに関しては、科学的根拠がないわけですから、基づきようがありません。
そうなると、最終的には、論理的に考えて、ある程度妥当だろうと担当医師が考える方法で診療するしかありません。
入れ歯治療は、特に科学的根拠が少ない分野です。
入れ歯治療は、歯科においても論文による科学的根拠が少ない分野です。簡単に言えば、こういう人にはこうすれば上手く治療できるというマニュアルがほとんどありません。
例えば、吸着入れ歯に関して、ある程度治療法は決まっています。その方法で治療すれば、約80%の人はそれで上手く吸着する(論文あり)ということがわかっていますが、残る約20%をどうするかということを実際の臨床では考えなければなりません。一般的に医師という立場からすると、80%の人を助けているから、残り20%の人は諦めるという発想になりがちですが、20%に入ってしまった人からすると、自分に関して言えば、100%の失敗になってしまうわけです。
もちろん、医学の限界というものがありますが、そこには、術者の経験や考え方(要するに腕の良さ)によって、成功率を挙げていく努力が必要になってきます。
科学的根拠が少ないからこそ、歯科医師の経験が非常に重要です。
当院の院長は、ずっと入れ歯を専門として診療を行ってきていますが、治療の経験というのは非常に大事だと実感しています。例えば、吸着入れ歯製作のマニュアル通りに治療して、上手く吸着しないことはもちろんあります。そこで、「入れ歯はそんなものだから、慣れてください。」と諦めてしまうか、どうにかして問題を解決しようと試行錯誤する経験を積んでいくかというところで、治療技術の差がとんでもなく開きます。
これは、とにかく雑に症例数を稼げばいいというわけではなく、入れ歯の質(噛める入れ歯・吸着・違和感・発音など)にとことんこだわった上で、経験を積んでいくということが大事です。
ファーストフードを何個作っても、おいしいフランス料理を作れるようにならないのと同じことだと思います。