精密根管治療の成功率
根管治療の成功率について、様々な論文があります。大まかには、以下のような成功率だと思っていただけると良いと思います。(大体は、5年から10年の経過観察後、単純レントゲン写真で病巣の有無を確認したデータです。)以下の数字を見ると適切な治療を行うことで、大幅に成功率を上げられることがわかります。
精密根管治療(世界標準のラバーダムを使用したちゃんとした治療)
- 抜髄(初めて神経を取るとき):約90%
- 感染根管治療(初回):約80%
- 感染根管治療(再発して2回目以降の治療で、前医により根管の形を大きく傷つけられていない場合):約70%
- 感染根管治療(再発して2回目以降の治療で、前医により根管の形を築づけられている場合):70%未満
外科的歯内療法(マイクロスコープを使用したモダンテクニック)
参考:日本での根管治療の成功率(主に保険診療)
当院での精密根管治療(感染根管治療(再発して2回目以降))後の状況:2015年5月開院~2022年12月まで
当院で詳細な統計を取っているわけではありませんので、完全に正確な数字は把握していませんが、参考程度に記載いたします。私がわかる範囲では、以下の通りで、処置後大きなトラブルを起こすことはそれほど多くない印象です。当然ですが、処置後経過観察で来院されない患者さんは追えません。
当院では、処置前と処置後3~6か月後にCT撮影により病巣の消失または縮小を確認し、処置後1~2年(その後2年ごと)に単純レントゲン写真で状態を確認しています。単純レントゲン写真では、CT撮影と比べて見落としが多いという論文があることと、現在の歯科用CTはX線被ばく量が非常に抑えられているため、短期的にはCT撮影での経過観察を行っています。
精密根管治療(外科的歯内療法を含む)を行った歯の本数
正確な数はわかりませんが、恐らく300~400本程度です。もう少し多いかもしれません。
術後、軽度から重度まで何らかの問題のあった方は17人で、歯の本数は20本です。
上記のうち、来院が途絶えて未解決の方は4人で4本です。
根管治療・外科処置を行っても自覚的に症状が取れず、予後不良だった歯は1本です。
精密根管治療を行った歯で、現時点で当院で抜歯になった歯は3本です。抜歯の原因は全て歯根破折であり処置後3年以上経過しています。歯根破折は根尖性歯周炎とは別の病気(外傷)なので、厳密には根管治療の失敗とは言えません。根管治療後の歯は薄くなって割れやすいということもありますが、どちらかと言えば、歯ぎしりやTCHなどのかむ力やくせの要因が大きいです。
歯ぎしりやTCHをお持ちの方は、どうしてもトラブルが多くなります。かむ力で、歯を壊していくことになるからです。
1 根管治療自体が成功判定にならず、かぶぜものがかぶせられていない歯の本数:3本
- 精密根管治療のみで治癒せず、外科的歯内療法を勧めたが外科処置を行いたくなくて来院が途絶えた方:男性A 左上6番
- 精密根管治療と歯周再生療法を行ったが状態が良くならず、来院が途絶えた方:男性B 右下7番
- 精密根管治療のみで治癒せず、外科的歯内療法が適用外だが症状なく、歯を残している方:女性A 左下6番
2 根管治療が成功で終わり、かぶせものを入れたがその後歯根破折し、外科処置が必要だと説明したが、来院が途絶えた方の歯の本数:2本
3 根管治療が成功で終わりかぶせものを入れた後、歯根破折により抜歯した本数:3本
- 女性B 左下7番
- 女性C 右上4番
- 男性C 左上4番
4 根管治療が成功で終わりかぶせものを入れた後、歯根破折したが、外科処置で残せた歯の本数:6本
- 男性D 左下6番
- 男性E 左下6番
- 女性D 右下6番 左上6番
- 女性E 左下7番
- 女性F 左下6番
5 根管治療が成功で終わりかぶせものを入れた後歯根破折したが、症状がなく進行もしていないため経過観察している歯:1本
6 根管治療が成功で終わり、かぶせものを入れたがその後かぶせものが壊れた歯の本数:1本
7 根管治療が成功で終わり、かぶせものを入れたがその後かぶせものが外れた歯の本数:2本
- 女性B 右下7番:再セット後、現在経過良好。
- 男性H 左上6番:再セット後、現在経過良好。
8 根管治療が成功で終わったが、何らかの事情(根尖性歯周炎以外の事情)で軽い腫れなどの症状が出て、経過観察している歯:3本
当院での精密根管治療(抜髄・感染根管治療(初回))後の状況:2015年5月開院~2022年12月まで
当院では、ほとんどが他院の根管治療後のフォローの処置なので、抜髄や感染根管治療(初回)は少ないです。たまたまだと思いますが、今のところ外科的歯内療法を行った患者さんは0人で、精密根管治療のみで成功率100%です。。
成功率は全患者さんの話で、患者さん個人からすれば歯1本の成功率は0%か100%かになります。
私は、歯科医師の立場で沢山の患者さんの沢山の歯を診ていて、全体からすると殆どはトラブルなく経過しています。しかし、残念ながら、上手くいかなかったケースも存在し、その患者さんからすればうちの治療の成功率は0%ということになってしまいます。その患者さん個人からすれば、私は腕が悪いぼったくりのヤブ医者ということになってしまうでしょう。医学は100%治すということが出来ず、手を尽くしても上手くいかないこともあります。がんを100%治せないのと一緒です。良くも悪くも、こういった事情をご理解いただきたいと思います。
歯根破折について。
上記の通り、当院での根管治療術後のトラブルの多くは歯根破折です。歯根破折は、歯ぎしりやTCHなど、噛む癖があったりすると、大きな力が歯にかかることで起こります。現代の医療で、歯根破折を防ぐ治療はありません。割れにくくするには、フェルール効果の利用・ファイバーコアの利用・かぶせものの材質や形の工夫・TCHを減らす指導など色々ありますが、どんなに手を尽くしても根管治療後の歯は神経のある歯より歯が薄くなるため確実に割れやすいです。
実は、歯根破折を防ぐ簡単な方法があり、それは根管治療せずに早期に抜歯(インプラントへ誘導)することです。当院では、そういう抜歯優先の治療を良くないと思い、限界まで歯を残す治療を行っています。