極力健康な歯を削らないようにし、歯の寿命を長くするように配慮します。
極力健康な歯を削らないようにし、歯の寿命を長くするように配慮しますとタイトルにごく当たり前のことを書いていますが、もっと具体的にどのようなことを考えてむし歯を取るかということを説明していきます。
むし歯を取るときの方針を説明いたします。
極力健康な歯を削らないようにし、歯の寿命を長くするように配慮しますとタイトルにごく当たり前のことを書いていますが、もっと具体的にどのようなことを考えてむし歯を取るかということを説明していきます。
理想を言えば、むし歯でボロボロになってしまった歯はあきらめて取り除き、むし歯になっていない健康な歯は残したいということです。失った歯は二度と戻らないということを考えれば、治療に必要だったとしても、健康な歯を削ることは極力避けたいところです。
まず、むし歯があったとして、どの段階(サイズ等)になったら治療するべきかということも考えなければいけません。 不必要なむし歯治療を行うことは、無駄に健康な歯を失う結果につながります。
まず、そのためには、むし歯と健康な歯を判別する必要があります。また、むし歯取るためには、むし歯の手前にある健康な歯は削らなければいけないし、むし歯を取った後の歯の修復処置(インレー・クラウン・ダイレクトボンディング等)によって、最低限削らなければいけない歯の量は変わってきます。
むし歯がどの段階になったら治療をするべきか、確実な答えはありません。治療するべきかどうか、判断するために参考になることについて、書いていきます。もちろん、個人差や患者さんごとに治療に対する考え方が違いますので、以下のことが絶対に正しいわけではありません。
健康な歯とむし歯を確実に判別する方法は残念ながらありません。いくつかの方法を組み合わせて、極力健康な歯を削る量を少なくしつつ、むし歯を確実に取り除いていく必要があります。
むし歯の部分を赤や青に染めだすお薬があります。しかし、むし歯でない健康な歯も薄く染まってしまうことがわかっていますので、染まった部分を全て削ると削りすぎになることが多いです。
むし歯は酸で歯が溶かされているため、やわらかいです。健康な歯と硬さの違いである程度見分けることが出来ます。
しかし、硬さはそれぞれの歯科医師の感覚によるものなので、これも確実だとは言えません。
むし歯を削る際に水をかけたり風をかけたり、歯を引っかいたりして刺激を与えますが、その時に歯の神経を刺激して痛みが出ることは当然あります。そもそも、むし歯の症状として冷たいものがしみるということがあり、それはむし歯を削るときの刺激はそれよりさらに強いということからも想像できることでしょう。むし歯を取るときの基準としては使えません。
健康な歯を削らないために、むし歯を少し残すとどうなるでしょうか。むし歯を残すと、その部分は歯と詰め物を引っ付けるための接着剤が引っ付きません。引っ付かないため、歯と詰め物の間にミクロの隙間が出来てしまいます。そうなると、そこからむし歯菌が詰め物の中の方へ侵入し、むし歯が進んでしまいます。これを二次う蝕といいます。むし歯の治療の目的のひとつとして、むし歯の進行を抑えることがありますが、むし歯の進行を促すような状態にするのはよくありません。むし歯を取る際は、取りすぎる(健康な歯を削る)リスクより、取り残すリスクが高いため、むし歯は確実に取った上で、極力健康な歯を削る量を減らすという考え方で治療した方が良いです。
むし歯はむし歯菌が原因なので、むし歯菌を殺す薬剤を使えばむし歯の進行を抑えられるのではないかと考えられます。確かにそうなのですが、現状、むし歯菌をしっかり殺せるお薬やセメントはありません。むし歯菌は、バイオフィルムと呼ばれる何層にもわたる複雑構造を作りながら歯の表面に引っ付いており、それは薬剤がバイオフィルム内に浸透するのを防ぐような構造を取っています。バイオフィルムの表面には多少薬剤は効くかもしれませんが、内部までは浸透しないことがわかっています。お風呂や流し台の排水口のぬるぬるがお薬だけでは取り切れず、ブラシなどでごしごししないと取れないのと同じです。むし歯菌を取り除くには、今のところ機械的に取る(削る)しかありません。
むし歯が噛む面や頬っぺた側・舌側にあれば、むし歯へのアクセスは簡単でしょう。しかし、左の図のような歯の側面の歯と歯の間にむし歯がある場合、むし歯にアクセスするためにはその手前にある健康な歯を必ず削らなければなりません。こういったむし歯の治療には、インレー修復とダイレクトボンディングがあります。
色々な削り方がありますが、絶対にこの方法がいいということはなく、状況によって使い分けることが大事です。
インレー修復とはむし歯を取ってから型を取って模型を作り、歯科技工士が模型上でインレーと呼ばれるつめものを製作し、それを接着する治療法のことです。
型を取ってからつめものを作り、歯に戻すという工程の都合上、歯のかむ面から引っかかる場所(アンダーカット)をなくしたり、つめものが外れにくい形態を作るために、健康な歯質も大きく削る必要があります。
これは保険適用のメタルインレー(銀歯)だけでなく、自由診療のハイブリッドセラミックインレーやセラミックインレー でも同様に起こる問題点です。
悪いことばかりに思えるインレー修復ですが、型を取ってお口の外で作業できるため、お口を開けられる量が少ない方の奥歯(特に親知らずの後ろの面)など、ダイレクトボンディングが困難な状況でも処置が可能です。
ダイレクトボンディングは、インレー修復と違い、むし歯を取った後型を取らずに直接樹脂(セラミックとプラスチックを混ぜたもの)を歯につめていく治療法です。
型を取らないため、アンダーカットがあっても問題なく、接着力が非常に強い材料を流し込むため、健康な歯を削る量を最小限にすることができます。
標準的には、左図のように噛む面から縦方向に削る方法です。むし歯の広がり方にもよりますが、単純な歯を削る量は少なくしやすく、また視野も確保しやすいため、むし歯の取り残しを減らしやすいです。
縦方向に削る欠点は、辺縁隆線と呼ばれる歯と歯の接触点の上の角の部分が削られてなくなることです。辺縁隆線がなくなると、歯の強度が下がってしまい、特に歯ぎしりしたときに歯が割れやすくなってしまうことがわかっています。
横方向に削るというのは、頬っぺた側から舌側の方向へ削っていくということです。
辺縁隆線が保存されるため、歯の強度としては有利です。但し、頬っぺたを引っ張るにも限度がありますので、奥歯だとこの方法で処置することが困難な場合が多いです。
トンネリング法は少し特殊な方法で辺縁隆線を削らずに噛む面から斜めにむし歯を取る方法です。
辺縁隆線は保存されるので、歯の強度としては有利です。
横方向で処置できない時でも可能ですが、斜めに削るため、健康な歯を削る量は多くなりがち(インレーほどではありません)で、さらに視野の確保が非常に難しく(特に上の面)、むし歯の取り残しが出やすいです。適応症は限られます。