器具以外の環境や術者への感染予防対策
診療室全体を清潔に保つことは、感染予防にはとても大事です。例えば、唾液で汚染された手でカルテや棚を触り、汚染されたカルテや棚を媒介して患者間で感染を広めてしまい危険です。治療器具以外も清潔に保たれる必要があります。
- 手を介したの感染予防(手洗い・グローブの交換)
- 環境消毒
- 飛沫・粉塵対策
院内の清潔な環境作りにより、院内感染を防ぎます。
診療室全体を清潔に保つことは、感染予防にはとても大事です。例えば、唾液で汚染された手でカルテや棚を触り、汚染されたカルテや棚を媒介して患者間で感染を広めてしまい危険です。治療器具以外も清潔に保たれる必要があります。
清潔の基本は、手洗いからと言われます。ものを触る手が感染していれば、そこから手が触れる全てのものに感染が広がってしまいます。まずは、手を清潔にすることにより、接触感染を減らすことが大事です。
当院では徹底して手洗いを行っております。研究によれば、手が目に見える汚れで汚染されていれば、水と石鹸による手洗いを行い、目に見える汚れがなくなれば、速乾式アルコールジェルでの手の消毒が効果的とされています。当院では、全てのスタッフが実践しております。
液体タイプの手指消毒薬は保湿されずに手が荒れてしまい、手荒れから感染を引き起こす可能性が上がってしまうため、常用は逆効果になる可能性があります。当院では、液体タイプの手指消毒薬は使用しておりません。
グローブは、治療をする際に術者と患者さんの間での感染を防ぐとても大事な保護具です。
特にグローブに関しては、歯科医師1名で1日の患者数が5-10人程度の小規模な歯科医院ですが、1日で100枚入りのものが1箱なくなるくらい徹底的に交換しています。
グローブを複数の患者さんで使いまわすことは論外として、グローブを患者さん1人に対して1枚使用でも足りません。グローブが汚れた後にきれいなところを触るときは、絶対にグローブを変えます。こうすることで、診療室全体が唾液や血液により汚染されづらくなり、院内感染を減少させることが出来ます。また、グローブは使用して15分で自然と穴が開いてくることがわかっていますので、頻回な交換は必須です。
グローブの箱の取り出し口は上向けにするとホコリにより汚染されてしまうため、写真のように横向けにして、汚染されないようにしております。
オートクレーブ(滅菌器)に入るサイズのものは、大きなものや熱や水分に弱いものは滅菌できません。例えば、歯科用チェアや部屋そのもの、電気機械類は滅菌できません。感染対策として、滅菌できないものに対しては、消毒を行います。歯科医院内全体を可能な限り消毒し、感染の機会を減らすように努力しています。
環境消毒において、消毒薬を含んだクロスにより、細菌・ウイルスを減少させることが効果が高いと言われています。サラサイド除菌クロスは、第4級アンモニア塩・エタノール・アルカリ材を含んだ消毒・清掃のための専用クロスです。一般的には一種類の消毒薬のみを含んでいますが、サラサイド除菌クロスは、複数の消毒薬が含まれており、より多くの種類の細菌・ウイルスに対して効果的に消毒可能な画期的な製品です。
歯科用チェアをビニールシートなどを巻いて保護するやり方もありますが、複雑な構造のためかなり煩雑になってしまい、汚染したビニールシートの着脱時に汚染が飛び散ったりして、余計に汚染を広げてしまう可能性があることがわかってきました。消毒薬が高性能になってきているため、平らな面は高性能な除菌シートで清拭する方が効果が高いと言われてきています。診療室など、汚染度が高い場所はサラサイド除菌クロスによって清拭しております。
診療チェアの患者さんが座るイスの部分は、サラサイド除菌クロスを使用すると薬剤がきつすぎて布がぼろぼろに劣化してしまい、余計に感染しやすくなってしまいます。そのため、布に使える専用の消毒薬を使って1回の治療ごとにしっかり清拭しています。
サラサイド除菌クロスは非常に高価であるため、汚染度の高い場所へ使用しています。比較的安価なアルコール除菌クロスで、毎日清拭をきっちり行っております。アルコール除菌クロスで、清拭している場所は以下の通りです。
地球には重力がありますので、汚いものはどんどん床にたまっていきます。診療所内で最も汚い部分は当然床です。床を掃除する際に掃除機を使用すると、掃除機の排気によって床の汚染物が部屋中に舞い上げられてしまいます。
当院では、掃除機を使用せずに使い捨てのお掃除シートによって、毎日床を清掃しています。
上記のように、環境清掃を行いますが、本当にきれいになっているかどうかは目で見ても全く分かりません。
除菌シートでさらっと適当に拭くのか、力を入れてごしごし何回もしっかり拭くのかで当然清掃効果は変わります。
当院では、ルミテスターと呼ばれる機械でATPふき取り検査を行って機械の表面に付着する微生物・汚れの量を調べています。これにより、可能な限り清潔になるような清拭の仕方をマニュアル化し、チェックを行っています。
滅菌できない機械類は、ビニール製のスリーブに入れて保護します。歯科用チェアのような複雑構造でないことが多く、適切に保護すれば器具を清潔な状態に保てます。スリーブで保護していても、外した後はサラサイド除菌クロスで清拭しています。
診療チェアから出る水の配管(ホースなど)内で、診療時間外に水の動きがないときに細菌が増殖する可能性があると言われています。
毎朝、診療開始前に、チェア内部に溜まった水を捨てて、きれいな水に交換する作業をフラッシングといいます。写真のように、ホース内の水を機械的にきれいにしています。
歯科では、歯を削ったり、歯石を取るときなど、注水しながら治療します。その際に、注水の勢いでお口の中の唾液や血液を含んだ水が霧状に舞い上がる飛沫が発生いたします。歯科治療時に発生する飛沫には体液が含まれますので、感染源となりえます。
飛沫対策で最も効果的なのは、診療室を個室にすることです。ご自身のお口から出た飛沫は感染源になりません。問題は、他の患者さんの飛沫に被曝することです。そのため、同じ部屋で複数人の診療を行わない限り、飛沫による直接的な患者間感染は起こりません。
当院では、歯科医師による治療については完全個室で行っています。歯科衛生士によるメンテナンスは昔のなごりで大部屋を使っていますが、患者さんは原則1人に制限していますので、大きな個室です。
当院は自由診療が中心の歯科医院で1人にじっくり時間を取って治療するため、1日の患者数が5~10人程度(メンテナンス含む)と人の出入り自体が少なく、感染対策に非常に有利です。
また、診療材料が飛沫で汚染されないように、棚に入れられるものは全て棚内で保管しています。
飛沫に加えて、歯科では、入れ歯・かぶせもの等材料を削るという作業があります。その際、削りカスが粉塵として発生しますので、吸引する必要があります。口腔外バキュームは、飛沫や粉塵を強力に吸引し、感染を防ぎます。
ラバーダムは、写真のように歯の周りをゴムのシートで覆う処置です。ラバーダムを行うことで、歯の表面が唾液に汚染されることを防ぐため、治療の成功率が上がるということが目的としてあります。さらに、ラバーダムをつけることで、術野から唾液を隔離するため、飛沫への唾液の混入を大幅に減らすことが出来ます。
全ての処置にラバーダムが出来るわけではありませんが、根管治療や歯の神経を保護する処置、ダイレクトボンディングの処置などには非常に有用なので、当院では可能な限り行うようにしています。
サージカルマスクは、術者の唾液などの飛沫を患者さんの上に落として感染さないために装着します。
エビデンスとしてはサージカルマスクにはウイルス感染に対してつけている人への予防効果はほとんどないことがわかっています。
N95マスクと呼ばれるさらに高性能のマスクもありますが、明らかにオーバースペックな上、非常に高価で使い捨てしづらいです。また、術者が呼吸をしづらくて、処置中に集中力が下がってしまうなどの弊害もあります。加えて、しばらく使用したマスクは汚染されてマスク自体が感染源になるため、安価なサージカルマスクをどんどん使い捨てした方が清潔だろうと判断しています。
飛沫や粉塵が術者の目の粘膜から体内に入って感染を引き起こさないように、ゴーグルにより防御します。出来るだけ、目の周りを大きく囲うタイプのものを使用しています。
空気清浄機により、口腔外バキュームにより処理しきれなかった空気の汚染を出来るだけきれいにします。天井埋め込み式のものもありますが、気流により汚染物を天井近くまで舞い上げてしまうので、当院では一般的な地面に置くタイプの空気清浄機を採用しています。